ある小さな港町に「サルヴァトーレ」という名の豚がおりました。
彼は独り身で、働きもせず、のんびり生活していました。
そんな彼のことを町の人たちは「ナード(怠け者)」と呼んでいました。
この街では朝から晩まで働くのが常識になっているからです。
ある朝、サルヴァトーレはいつもより早く起きて、
以前見つけた釣りの穴場へ向かいました。
彼が穴場へ着くと同時に、カモメの「スミス」がやってきました。
さっそくふたりは釣りの準備に取り掛かりました。
「カモメくん、今日は何が釣れると思う?僕はね、あの魚が釣れると思うんだ。
前よりうんと大きいやつね。そうしたら、塩焼きにしようか。」
ふたりはまだ釣れてもいないのに、楽しそうに話していました。
サルヴァトーレは準備を済ませると竿を投げて、
ウキが水面に上がってくるのを確認すると、
ゆっくり腰を下ろしました。
二人は釣りをしながら、日向ぼっこするのが大好きでした。
しばらくすると・・・・。おや、何か掛かったようです。
いつもゆっくりなサルヴァトーレもこの時は違います。
すぐさまカモメのスミスも手伝いましたが、
思ったより獲物は大きいようでビクともしません。
スミスは町の人たちを呼びに行き、
数人、駆けつけてくれました。
今度はみんなで力を合わせて引き上げます。
「せーの。いくぞー。それーっ。」
引き上げたちょうどその時、
かかった魚もこちらに向かって勢いよく飛び跳ねました。
そのまま勢いに乗って、サルヴァトーレたちの頭上を軽々と越え、
少し離れた桟橋あたりに落ちました。あまりにも大きい音がしたので、
町の人たちが気付いて集まってきました。
「こりゃたまげた。こんな大きな魚は見たことない。」
町の人たちも仕事を忘れ、盛り上がっていました。
サルヴァトーレもつい浮かれてしまい、
町の人たちに、魚と勇敢に対峙した話をしていました。
スミスも自慢げにうなずいていました。
その後、サルヴァトーレは魚が逃げないよう、
桟橋に括り付けました。
「その魚はお前のじゃないだろ。サルヴァトーレ!」
町の漁師たちがものすごい形相で叫びながらこちらに向かってきました。
「それは町の海でとれた魚だ。お前は普段こそこそ釣ってたのは見逃してやったが、
今回はそうはいかねえ。」
「それにこの魚は俺たちが追いかけていた魚だ。
前からいたのは知ってたんだ。」
漁師たちはサルヴァトーレに言いました。
「負け惜しみはやめて、早く仕事に戻ったらどうだい?」
とサルヴァトーレは言いました。両者で口論がどんどんエスカレートしていき、
やがて『この魚の持ち主はどちらなのか。』
という主張演説が始まりました。これがまた大変盛り上がり、
町の人たちは、どちらの主張が正しいのか話し始めました。
――――続く
生川真悟(なるかわしんご)
25歳の時絵本に魅せられて絵本を作り始める。たまたま訪れた会場でホテル暴風雨オーナーと出会い、オーナーとホテルが好きになりました。オーナーのようなジェントルマンな雰囲気で、子どもの心の扉を開けワクワクさせられるような児童文学作品を作り続けたい。茶碗蒸し(卵)と薬味好き。平成元年生まれ。野球守備位置はセカンド・ショート。出塁率は4割(ほとんどフォアボール)。ファール打ちとバントが得意。中川創作絵本教室所属、中川たか子を師に仰ぐ。
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