『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(2)「収録作品を作者が紹介:絵と文の関係、それぞれ」
イラストレーター5名のグループ「ホテル暴風雨 絵画文芸部」による小説と絵のアンソロジー本『五つの色の物語』がamazon POD で出版されたことを記念する座談会の2回目です。「絵画文芸部」とは? POD出版までのいきさつ、など。絵と文の表現・本作り・POD出版などに興味のある方のご参考になれば幸いです。
1回目はこちら:『五つの色の物語』amazon POD出版記念 作者座談会(1)イラストレーターはいかにして小説を書いたか?
ーーここからは、アンソロジー『五つの色の物語』に収録された小説の内容に入って行きたいと思います。「色」というお題からどのように物語を発想したかも含めて、ご自分の小説の読みどころを教えてください。
服部奈々子(絵画文芸部副部長。小説家名は「芳納珪」。以下「服」):「赤」に決まって、最初は血とかホラーっぽいものしか浮かばなくて悩みました。そのうちふと、香港出身の友人が日本の紅葉に特別な憧れを持っていたことを思い出して、それと前から考えていた「マトリックス的世界では絵描きが強い」というのを組み合わせようと考えました。
斎藤雨梟(絵画文芸部部長。以下「雨」):「赤」がどんな赤か想像しながら読んで欲しい作品ですよね。ヒロインの瑚葉(こよう)が描く赤い森の絵が、塑界と呼ばれる異世界へ入り込む鍵になっているという設定。なので、どんな絵なのか自然に想像すると思いますが、未知への憧れとして輝く赤、懐かしく暖かい赤、もしかして少し禍々しい赤? と読むうちにいろんなイメージが出てくるのが楽しいし、後半ばーんと赤の絵が実際に登場する時の新鮮さも見どころ!
服:ありがとう。実は赤って自分の絵ではあんまり使わないんだよね。赤い絵ということで村山槐多(※6)が思い浮かんで、画学生の話になったのはその連想もあったかも。
クレーン謙(絵画文芸部宣伝部長。以下「ク」):元ネタは『マトリックス』でしたか! 確かにあの映画もアジア的な価値観を深く取り入れてますね〜。
服:元ネタというか、「想像したものが実体化する能力」みたいな設定って、SFとかファンタジーではわりとよくあるじゃないですか。だけどそれってものすごく細部まで具体的に想像しないといけないから、絵を描けない人には辛いんじゃないかと思うんですよね。
ク:な〜るほど。変な言い方ですけど、ウソをつくにも細部に渡って想像が必要ですよね(笑)
雨:さっきの「美形キャラ書くなら文章で」ともつながりますね。「絶世の美女を克明にイメージさえすれば実体化できる」と言われたらヒャッホー! となるかっていうと、大抵は克明にイメージできないような(笑)。
松沢タカコ(絵画文芸部デザイン部長。以下「松」):確かに! 絵を描く人はものをよく見てるって常識みたいに思われてるところがあって、私には荷が重いと思うことがままあります……。
服:松沢さんのはちょっと思いもよらない視点の発想だったね。物理的に「見る」というのとは違うかもしれないけど、あれも一種の観察眼だと思う。
松:最初はもっと格調高い幻想文学みたいなものを書こうと思ってたんです。テーマカラーもそのイメージで白に。ところがいざ書き始めたら、場面だけは浮かんでるのに、物語に発展しないんです。焦った挙句とにかく「何でもいいから書き始めよう」という勢いで書いたのが今回の小説の冒頭でした(笑)。今どハマりしてる海外ドラマに科学者同士のカップルが出てくるんですが、自分は頭がいいと思っている男と彼を尊敬しつつ独自の視点で勝負できる女、という構図がいいなあと思って。最初はメールのやり取りだけで終わるつもりだったのですが、ドラマチックな要素を入れていったらこうなった、という感じです。
服:最後のエピソードは推敲の過程で加わったんだよね。あれ良かったと思う。
松:白が足りない!と散々言われて(笑)
浅羽容子(絵画文芸部会計部長。以下「浅」):すみません……言いました……。でも、結末の追加でグンと良くなりました。
雨:私もあれすごくいいと思いました。物語のカタストロフィーの後、「I」と「A」の関係は変わってしまうのかという予感もさせるんだけれど……悲しみはあるけれど希望もある、再生のあり方が感覚でスッと伝わるエンディングと感じます。ネタバレを恐れてモヤモヤした言い方になってしまうけど(笑)、ぜひ実際に読んでみて欲しいです。
ク:「何でもいいから書き始めよう」と思ったというのは意外でした! すごくまとまっていたので。
雨:私は「青」がテーマですが、特に「紺青色」を意識しました。紺青の顔料は「花紺青」とか「プルシアンブルー」とか呼び方はさまざまで、微妙に違うものを指すこともあるようです。その顔料が解毒剤として使われるとどこかで読んで「それ面白い!」と興味を持っていました。人体内で放射性セシウム137など特定の物質と結合して体外への排出を促す作用がある一方、摂取することのリスクも大きいらしい。この謎めいた感じを、ストーリーに取り入れようと思いました。もともと自分の絵にも好んで使う色なので視覚的イメージは広げやいですし、化学的にも組成式 Fe4[Fe(CN)6]3 「錯体」という複雑な形で結晶構造も面白いんです。色の元になる顔料の物質そのものが、人間がどう見るか、どう利用するかに関わらずミステリアスというところに惹かれました。具体的には、モノクロームの世界で初めて美しい「青」を見るのはどんな体験か? という想像から始めました。空の青でも海の青でも、印象的な「青」が想起される物語になっていればいいなあという気持ちです。
ク:なってました、なってました。いろんなブルーが見えましたよ。
服:青のイメージは強烈でした。美しくて恐ろしい、ゾゾゾっと来る感じ。個人的には百合(※7)もよかった。
浅:百合に萌えた。
雨:ありがとうございます。百合テイストでガール・ミーツ・ガール風なんだけど、実は!? というところもポイント!
松:なるほど、理系発想の小説だったのか〜。
服:挿絵が入って、強迫観念のような「水」のイメージが増幅されましたね。私、プールの水の中の奥が見えないもわっとしたところとかすっっっごく嫌なんですけど、そういう嫌さがとてもいい。嫌(いや)される。
雨:私は橋脚が水に浸かってるあたりとか見るのがすごく怖い。その怖さは確かに意識しました。「嫌される」ってニュアンスの伝わるうまい表現……。
ーーカッパ的には、水はあればあるほどいいですね。どうもここは水気が少なすぎます。ああ、想像したら皿が乾いてきた。じゅっ(とお冷やを頭の皿に注ぐ)。
浅:(カッパの皿から飛んだ飛沫を巧みによけながら)今回の作品は、あまり悩まないようにして素直に黄色のイメージを書きました。読みどころは、文章中にビートルズのメンバーが一人、隠れているところです。
服:それ、わかんなかった。もっかい読んでみよう。
ク:あら、気づかなかった。
雨:◯色い〇〇〇?
浅:違います。フルネームで出てきます。
服:これは是非とも買って読まなければ!
松:黄色だけでできてる虹、という発想に心をわしづかみにされました〜。
服:あそこまで黄色づくしで来るとは思わなかった。よくあれだけ集めたよね。私は黄色いおやつのくだりがすごく好き!
浅:虹とおやつに反応してくれて、ありがとうございます!
雨:おやつタイムがたくさんあっていいね!
浅:私の夢です^^
ク:自分の担当色が「緑」に決まったとき、どないしようかと思いました(笑)。今回は、ホテル暴風雨上で連載した物語を少々書き直したんですよ。決して文章が上手いとは思っていないので、せめて、なるべく多くの人が共感できるように、と心がけました。もちろん『色』をテーマにです。
服:緑色だから森などの自然のイメージで来るかなとは思ったんですが、まさか「あれ」とは。虫の変態って人間に置き換えるとすごく神秘的な感じがしますけど、内面のことを考えたら結構あんな感じかも。思春期の心のドロドロ感というか。
雨:「あれ」が創造主に対してスネてる感じも思春期っぽい! 初稿から変えたラストもよかったですね。
服:ページデザインもよかったよね。絵物語風で。
浅:最後の絵が迫力あってGoodです!
雨:黒ページに白抜き文字はクレーンさんだけで、本の真ん中にそれが入るのがいい感じです。
ーーみなさんの頭の中で、表現方法としての「絵」と「小説」はどういう関係にあるのでしょうか?
松:別物すぎてあんまり考えたことない(笑)。ただ、私が自分の小説の装丁を担当するデザイナーだったら、私にイラストを頼むことはないだろうな、と。なんかテイストが違うんですよね・・・うまく言えませんが。このメンバーだったら、浅羽さんに装画を描いて欲しい!
服:すごいわかる! 私も自分がデザイナーだったら私の小説のイラストを私には頼まない(笑)。逆に考えると、小説と絵を両方手がける人の中でも、テイストがちゃんと一致している人が残っていけるんでしょうね。それこそトーベ・ヤンソンみたいに。私は今回の小説の挿絵は雨梟さんにやってもらいたいかな。
ク:よくわかります。僕も自分の挿絵、実は描きたくない。
浅:私は自分の本であれば、絶対に自分が装画を描きたいとずっと思っています。装丁デザインはプロの方にお願いしたいですが……。松沢さん、出版の折には、是非装画を描かせてください!
松:是非!
雨:おお! ご指名嬉しい、ありがとう。服部さんの小説の挿絵描きたいな〜 私は絵も文も自分でできればそれもよし、他の人とやるのもいいなというどっちでも派です。今度、他のメンバーと組んで絵と文を担当する本作るのもいいかな? というか、そのうち絵画文芸部の中で組んでお仕事できたら最高です!
浅:そうですね。絵と文、私にとって双子のようなものですが、ソロ活動させてみるものアリですね!
ク:同意!(笑)。浅羽さんは、絵と文章が同じテーストです。
服:ですよねー。うらやましい。クレーンさんもあってる気がするけど。
ク:服部さんは確かに別人格な感じが。
服:だからペンネームを使い分けているのです。
雨:でも浅羽さんの絵はいろんな文章を受け入れるというかいろんな文章に別の色合いを帯びさせるというか、装画としての守備範囲は広そうですけどね。
松:線画とアクリル画でだいぶ世界観違いますもんね。
浅:線画はなるべく描きたくないのです……。仕方なく描いています。
ク:なんか考えさせられる質問ですわ。。。
雨:小説を書き始めたきっかけのところでも話題にしましたが、私は表現した原型みたいなものが、いろんな感覚が混ざった(視覚の比率多めだけれどイコールではない)塊なので、自分で絵と文章にできれば二方向から捉えられるのでいいなという感じです。でもその「塊」によっては、これは絵にはできるけど私の文じゃ無理だとか、逆だとか、残念ながら両方無理だとかもあります。他の人と組んで絵だけ、文だけ、もやってみたいです。絵と文が、絵本みたいにピタリと明確な役割を持って明らかに引き立て合って助け合っているのも素敵なんですが、好みでいうと、接点が薄く仲間とは思えなかった二人が、探ってみると密かに協力体制をしいていたくらいの距離感がいい(ミステリ読みすぎなたとえかな)。
ク:確かに色々チャレンジしてみたいですね。互いのストーリーに絵をつけるとか。
雨:それ、やってみたい企画です。皆さんはどうだろう?
服:さっき言った、漫画とか色々な表現を載せるという話と合わせるといいかもね。
※6 村山槐多・・・大正8年に22歳で夭折した画家。ガランス(暗い赤)を好んで使った。
※7 百合・・・女性同士の恋愛。
(構成:服部奈々子)
続く「座談会(3)」では、pod出版で本の内容をPDF化する時にあたった具体的な問題など、「絵画文芸」を志す仲間たちに役立つ(かもしれない)ことを話します、どうぞお楽しみに。
座談会(1):「イラストレータはいかにして小説を書いたか?」
『五つの色の物語』やPODについてはこちらの記事もご覧ください。
収録された5編の小説は、こちらのページで冒頭試し読みができます。
<白の物語>松沢タカコ作 「Confession of Love」
どうぞよろしくお願いいたします。次回をお楽しみに!
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